大きな木の小さな願いごと

ある森に赤い実をつける大きな木がありました。

いつも、たくさんの赤い実をつけます。

森にすむ動物たちも鳥たちも、みんな「おいしい」と
言って、赤い実を食べます。

大きな木には小さな願い事がありました。


「わたしの赤い実は動物も鳥も食べるけれど、
まだまだたくさん残っている。
これを町に住んでいる人にあげたいな〜」


町に住んでいる人は、森の奥深くにいるこの大きな木のことを知りませんでした。




木は歩くことができないので、自分で赤い実を町の人へ届けることができません。

赤い実が朽ちる時まで、ずっと小さな願い事をし続けましたが、

いつも叶いませんでした。




また季節がめぐり、赤い実がなりました。

大きな木はその年も小さな願い事をし続けていました。


そして、ある日大きな木のそばに天使が通りました。

大きな木は天使に話しかけました。

「おーい、天使さんたち、神様のお使いのついでに、私のお使いもしてくれないかーい」


大きな木の声は、天使たちには大きな声でした。

びっくりして、振り返ると大きな木が天使たちを見つめていました。

天使たちは大きな木のところへ行き、赤い実をもらって食べました。

天使たちは口々に「おいしい」と言いました。


大きな木は言いました。

「私の赤い実を町の人に届けてもらえないだろうか。」


ある天使が答えました。

「町の人たちはたくさんいるから、赤い実が足りないよ。」


また別の天使が言いました。

「町の人たちはたくさんいるけど、誰に赤い実を渡したいの?」


大きな木は、ちょっと考えてから、

「人助けをしている人に届けたい。」と言いました。


天使たちは集まって相談しました。


そして、天使たちは大きな木に言いました。

「私たちは、神様のおつかいを終えて、帰り道の途中です。
赤い実を私たちが持ち帰り、お菓子を作りましょう。
赤い実をお菓子にしたら、たくさんの人にあなたの赤い実を届けることができますよ。」



大きな木は喜びました。

赤い実だと足りない、けれども、お菓子だと、多くの人に食べてもらえる。


大きな木の小さな願い事は、天使たちに託されました。




天使たちは自分の住んでいるところへ赤い実を持って帰りました。


そして、すぐにお菓子を作ることにしました。

「どんなお菓子にしようか?」

「赤い実の味は、お菓子にすると味が薄いかもしれないな〜」

「お菓子の味付けはどうしようか?」


お菓子にすると赤い実の姿は消えてしまいます。

天使たちは赤い実を食べたとき、あることに気づいていました。

それは、赤い実の味は、大きな木のやさしい気持ちなんだと。




そのやさしい気持ちはなんだろう???と天使たちは考えたのです。

天使たちは、「愛だよ」、「平和だよ」と口々に言いました。



天使は相談して、お菓子に赤い実を入れて、「愛と平和」の味を足すことに決めました。


天使たちは一生懸命、お菓子の味付けをしました。

出来上がったお菓子は、とても素敵な色をしたハート型のお菓子になりました。





天使たちは、ハート型のお菓子を人助けをしている人たちに届けました。

たくさんの人たちにハート型のお菓子は届きました。


どうやって、届けたのかって???


それは、ちょっと変わった方法でした。


町の人たちは天使たちを見ることができませんでした。

そのため、天使たちはお菓子を渡すことができません。


そこで、人助けをしている人が寝ているとき、夢の中でハート型のお菓子を渡しました。


人助けをしている人は、町にたくさん、たくさんいました。

そして、その人たちはとっても疲れていました。

人助けをしたら、また次の人、また次の人と休みなく働く人が多かったのです。



疲れていたので、やさしい気持ちが消えてしまった人も中にはいました。

天使たちはそういう疲れた人たちの夢の中へ出かけていき、ハート型のお菓子をプレゼントしたのです。



ハート型のお菓子をもらった人は、うれしくて、みんなその場で食べました。

それを夢だと思わないほど、甘くておいしい味が口に中に広がりました。


食べた後、みんな不思議な人を見ました。

それは、虹色の中に立っている人の姿でした。


夢の中で天使に会って、不思議な人を見て、そして目覚めました。





不思議な人はこんな人でした。



それは、夢の中で出会った、その人のやさしい気持ち、そのものでした。


ハート型のお菓子を食べた後、その人のやさしい気持ちが戻ってきたのです。


やさしい気持ちが戻った姿を見届けると、天使たちは夢の中から立ち去りました。


そして、その人たちは朝の目覚めを迎えたのでした。





いつもと変わらない朝でした。


けれど、ハート型のお菓子を食べた人たちは、

へんな夢を見たけど、なんだったかな〜、思い出せないぞ、と思いました。


確かに、口の中には今までに味わったことのない甘くてやさしい味が残っていました。

それは夢の中で食べた、あの味だ!とわかるのですが、夢を思い出すことはできませんでした。


それと同時に、なんだか胸があったかく、幸せな気分で目が覚めたことに、誰もが気がつきました。


「きっと、いい夢だったんだ、さて、今日も一日がんばるぞ」と


みんなそう思ったのでした。





それで、どうなったのかって???


大きな木は自分の小さな願い事が叶って幸せでした。

天使たちは大きな木の願い事を叶えることができて幸せでした。

ハート型のお菓子を食べた人たちは、人助けの仕事のとき、いつも以上にやさしい気持ちがあふれました。

助けてもらった人たちは、「ありがとう」の気持ちでいっぱいになりました。


そして、その場にいた人たちは幸せな気持ちを分かち合うことができました。




大きな木の小さな願い事が叶ったことで、幸せを分かち合うことができました。


次はあなたの夢の中にお菓子が届くかもしれません。




**** おはなしは、おしまい ****




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